ミーコさんは1歳くらいの猫。
5月に交通事故で病院に担ぎ込まれてきた猫さんでした。
他院にて「下半身不随の可能性あり」とのことで、搬送されてきた、救急患者さんでした。
第一尾椎(尻尾の一番最初骨)が折れ、骨盤がばらばらに折れ、息も絶え絶えの状態でやってきました。
肝臓の値も測定不能なくらい高く、両後ろ足はまったく動かず、ぐったりとした状態でした。
この中で意外と問題が大きいのが尾椎の骨折です。
尻尾の骨くらい、なんか問題あるの?と思われるかもしれませんが、尻尾の骨とはいえ前のほうの骨折だと、後ろ足の麻痺が起こったり、排尿ができなくなったりすることがあるのです。
これを「馬尾症候群」と言います。
何で猫なのに「馬の尾」と思われるかもしれませんが、この話をするとあまりに長いので、ここははしょります。
ここで問題は後ろ足が立たないのは骨盤骨折のせいだけなのか、それとも尾椎骨折による神経症状も関わっているのか、というところです。
もし尾椎骨折による神経症状だとすると、骨盤骨折の手術をしても歩けないかもしれませんし、下手すると自力排尿ができなくて、一生飼い主さんが圧迫排尿して生きていかなければいけません。
もし尾椎骨折は関係なく、骨盤骨折のせいだとすると、早く骨盤骨折の手術をしなければ、手術が手遅れになり(骨盤骨折は時間がたつの手術が困難になってしまうのです)、排便異常が起きてしまうかもしれません。
骨盤骨折に関しては、必ずしも手術をしなければいけないとは限らず、基本的にかなりばらばらに骨折していても、2,3ヵ月後くらいには歩けるようになっていることがほとんどです。
ただ、骨盤がゆがんでくると将来、骨盤狭窄が起こり、自力でうまく排便できなくなることが多いのです。
便秘くらい、と思われるかもしれませんが、一生下剤を飲ませ、週に一回病院で浣腸される生活が生涯続くわけで、場合によっては浣腸のたびに全身麻酔が必要になることすらあります。
言ってしまえば骨盤骨折の手術は、歩けるようにするためではなく、うんこができるようにするための手術なのです。
しかもミーコさんの骨盤はバラバラ、股関節も脱臼しており、少なくとも3箇所は骨をいじる必要があります。
入院や点滴、薬、検査物もろもろの費用もあわせると、35万くらいは軽く行ってしまう状況です。
また尾椎骨折は、血流不全で尻尾を落とす手術が必要になることもあります。
後ろ足の深部痛覚(指の間をつねったときに痛がるそぶり)は、骨盤骨折の痛みではっきりせず、「手術をすれば治りますよ」と明言することもできません。
深部痛覚は1週間から10日もすれば、はっきりして、神経障害が残るかどうかが分かるのですが、それでは骨盤骨折のタイムリミットに間に合いません。
完全に賭けです。
しかもそうとう分の悪い賭け。
飼い主さんは悩みました。
それはそうでしょう。
手術して歩くようになる、生きていける、という保障があるなら、35万も許容範囲かもしれませんが、手術してももしかしたら、下半身不随のままかもしれないのですから。
私だったら・・・やっぱり難しいですね。
手術するでしょうが、それは自分でやれば、お金がほとんどかからないからと言うのもあると思います。
ご家族の中には「安楽死」を口にする方もいたそうで、それはお受けできないのですが、それを考えたくなる気持ちも分からなくはないです。
正しいかどうかは別として、「治る可能性が低いなら、いっそ楽に・・・」と言うのも、一つの愛情表現なのかもしれません。
飼い主さんの結論は「GO」でした。
手術をしてあげてください、とおっしゃったのです。
「やっぱり、このまま見殺しにはできない」と
すごくうれしかったです。
別にお金がたくさん入ってくるからではなく(・・・たぶん)、飼い主さんのミーコさんへの愛の深さがうれしかったのです。
後に尾が腐ってきて断尾手術する羽目になったり、外傷部分の可能で皮膚の手術をする羽目になったり、入院が思った以上に長引いたりしましたが、骨折手術以降の費用は一切合切サービスにしてしまいました(おう、太っ腹ー)。
それくらい、お母さんの決断はうれしかったのです。
注意:いつもこんなサービスをやってるわけではありません。飼い主さんの人柄の良さや、そのときのシチュエーションや、私のテンションの盛り上がりなどさまざまな要素が合わさった、言ってしまえば「勢い」です(・・・こ、後悔なんかしてません)。
そして手術から一月たち・・・
ミーコさんは立ちました。
気持ちとしては「クラ○が立った!!」です。
「クラ○ー、ペー○ー、低燃費〜」です(なんのこっちゃ)。
しかも自分でちゃんと排便、排尿している。
完璧ですミーコさん。
あまりのうれしさに写真を撮ろうと「ミーコさーん」と呼びかけるも、帰りたい一心でひたすら外を眺めるツンデレなミーコさん。
おしりの毛がまだ生え揃ってないのはご愛嬌。
毎回こんな感じだと、私も飼い主さんも幸せなのですが、もちろん賭けに負けることも多々あるわけです。
ただ、宝くじは買わなきゃあたらない、というところなのかもしれません。
尊い命を賭け事にたとえるのは良くないですね。
でも、お母さんの英断に感謝せざるを得ない症例でした。
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