2月は日が短いせいか、あっという間に毎年過ぎてしまうのですが、今年の2月はえらく濃密で、あっという間に過ぎたは良いが、スタッフ一同疲労困憊の月でした。
病気はなぜか続くもので、全然関係ないはずなのに、同じ病気の子が次々と担ぎ込まれてくる不思議な偶然が時々起こります。
膀胱結石や、椎間板ヘルニア、熱中症などのように、季節によってはでやすい病気ももちろんあるのですが、ここ2,3年診てなかった膿胸の患者さんが次々ときたり、なぜか骨盤骨折の手術ばかり来たりと、嫌なことは続くものなのです。
今月とにかく多かったのが骨折と、異物誤飲の手術で、感覚としては
骨折、異物、異物、骨折、異物、異物、異物、避妊、異物、骨折・・・みたいな、日ごろよくある避妊手術がほとんどない代わりに(というか骨折や異物の手術のせいで、予定が先送りになってたり)、骨折と異物のオンパレード。
獣医師をはじめて11年くらいになりますが、今回初めて、異物の手術が終わって退院した翌日に、また別の異物で来院手術という究極の離れ技(離れてない技?)を見せてくれた子を経験しました。
折れたものはしょうがないですし、飲み込んでしまったものはしょうがないですし、連続してくるのは誰のせいでもないのですが、さすがに短期間に集中してくると体力的につらいです。
特に異物はやっぱりよろしくないです。
骨折はこれはもう事故なのでしょうがないといえばしょうがないのですが、異物誤飲は厳しい表現をすると監督不行き届き、事故というよりは過失に近いのかもしれません。
・・・監督不行き届きまで言うのは、さすがにいいすぎですね。
時々診察室で
「こいつなんでも口にするんですよ!」とこつんと犬の頭をたたく飼い主さんがいるのですが、それは動物をせめてもしょうがないことです。
好奇心旺盛なウサギや犬、猫にとって、床に何か変わったものが落ちていたらくわえてみたくなるでしょうし、ゴミ箱から良いにおいがしてきたら顔を突っ込んでみたくなるでしょうし、カーテンから糸がほつれていたら引っ張ってみたくなるでしょうし、それはもう本能というやつです。
以前も中毒のひとりごとか何かで書いたと思うのですが、動物たちはハイハイを始めた赤ちゃんみたいなもので、目につくものはとりあえず何でも口に入れてみようとするわけで、それを防ぐために赤ちゃんは人がついていないときはベビーベッドに入っているのです。
口にものを入れるからと赤ちゃんをしかってもしょうがないわけで、口にものを入れられる環境に問題があるのだと思います。
ケージで動物を飼うことに抵抗を感じる飼い主さんは時々いらっしゃいますが、別に24時間ずっとケージでというわけではなく、もちろん一緒にいて様子を見ていて上げられるときは出してあげても良いと思います。
要は、外出するときや夜寝るとき、テレビに集中したいとき、トイレに行くときというふうに、これが赤ちゃんだったらきっとベビーベッドに入れておくだろうな、というシチュエーションでケージに入れてあげて欲しいのです。
ゴミ箱を高い位置に上げ、床に危ないものが落ちてないかを確認して、ケージから出す。
それだけで多くの事故が防げると思うのです。
ケージはけして拘束具ではありません。
ベビーベッドに入っている赤ちゃんを見て、
「閉じ込められてかわいそうに」と思う人はいないはずです。
赤ちゃんの安全をベビーベッドで守ってあげているんです。
犬やウサギをケージに入れて守ってあげると考えてはもらえないものでしょうか。
今までいろんな異物がありましたが、ウサギだとやはりじゅうたんやタオル、カーテンをかじった糸くずなどが多かったでしょうか。
あとはスリッパの裏とかビニール袋のかけらとか、中には焼き豚をくくっていた紐をかじって飲み込んだ子もいました。
犬までいくともう、何でもありで、竹串、まち針、テニスボール、石ころ、家具をかじった木屑、化粧品のふた、クリップ、輪ゴム、雑巾、アイスのスプーン・・・。
テニスボールなんで、小型犬が丸飲みだったので、よくもまあ食道でつまらなかったと、ちょっと感心したくらいです。
異物の厄介なところは、必ずしもすぐに症状が出るとは限らないことです。
中毒などでは、食べて2,3日後くらいに症状が出ることが多いですが、異物の場合飲み込んで半年後や一年後、二年後に症状が出ることもざらです。
そして派手に下痢をしたり吐いたりという症状だと分かりやすいのですが、数日に一回吐くとか、吐いてないけど食欲だけ落ちてきたとか、場合によってはまったく症状がなく体重だけがじりじり減ってくることもあります。
今月手術をしたこの中で、半年前に恐竜のおもちゃの尻尾を飲み込んだ子が、数日に1回吐いて、という地味な症状でやってきました。
親指の先ほどの大きな塊でしたが、ゴム製のものでレントゲンにも写りませんでした。
結局飲み込んで半年の間は胃の中に転がって、症状が出ず、今月腸に詰まって症状が出始めた、ということなのでしょう。
ここで、たいした役にも立たない、異物の7か条
1.意外なほど大きなものが飲み込める
2.飲み込んだものの一部が出たからといって、すべてが出たとは限らない
3.レントゲンで分からないことも多い
4.必ずしも分かりやすい症状が出るとは限らない
5.しかも発症が数年後ということもざらにある
6.意外なほど小さいものが腸に詰まることがある
7.10年間異物を飲んだことがないからといって、11年目も飲み込まないとは限らない
ちなみに7は要注意です。
よく異物誤飲で病院に来た飼い主さんが、
「今までこんなことしたことないのに・・・」とか
「今までは便で出てたのに・・・」とか言われますが
今まで大丈夫だったから、これからも大丈夫なんて保障はどこにもないのです。
ただ、やっぱりなかなか自分自身のこととして考えるのが難しいんですよね。
なんとなくうちは火事で全焼しない気がするし、うちの家族は交通事故で死んだりしない気がするし、うちのおばあちゃんはオレオレ詐欺に引っかからない気がするし・・・
火事や事件、事故をニュースで見ていても、やはりどこかで他人事のような気がしますものね。
でも、今月異物誤飲で病院にやってきた家族の方もみな、同じ感覚だったんだと思いますよ。
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