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アレス動物医療センター

3週間ダイエット


 私もそうですが、ダイエットというのはなかなか大変です。
 
 特に動物の場合、本人は太るといろいろな問題が出てくるという危機感がないわけで、当然のようにおやつやフードを要求してきますし、ダイエットが成功するかどうかは飼い主さんの自制心にかかっているといっても過言ではありません。
 
 「ママーチョコレートー」とねだる子供に
 「おやつばっかり食べてたら、晩御飯食べられなくなるでしょ!」と怒れる親でなければいけないのですが、これが実際はなかなか難しいのです。

 いくらダイエット食が優れていても、いくらきちんとカロリー計算をしていても、家族に裏切り者が一人でもいれば、ダイエットは失敗します。

 今日はダイエットのためだけに病院に3週間入院したヨークシャテリアのモモちゃんのお話です。

 モモちゃんは本来2kgくらいのはずの、かなり小柄なヨークシャテリアです。
 ですが実際の体重は5kgもあり、人間で言うと本来60kgの人が150kgくらいになってしまっている、という感じでしょうか。
 
 なかなか皮膚病が治らず、セカンドオピニオンとしてこちらの病院に来たのはもう3年前くらいだったと思います。
 初めてお会いした時は全身の毛がほとんどない状態だったのですが、半年くらいできれいに毛が生えそろい、見た目は治ったのですが、相変わらず病院に来ると皮膚を痒そうにかきむしっていました。

 いつも病院に連れてくるのはお母さんで、
 「モモちゃんはアレルギーの症状が強いから、ドッグフード以外は絶対あげないようにね」とお伝えすると、深々と頭を下げ、「絶対あげません!お父さんにもきつく言っておきます!」と来院されるたびに、決意を新たに固められる、とても真面目た方です。

 モモちゃんは皮膚だけでなく、気管虚脱という呼吸器の問題も持っており、これは遺伝的な問題と、肥満によって、気管という空気の通り道がつぶれて、呼吸困難になってしまう病気で、いつも遠くから病院に来るため、来院時には呼吸困難と熱中症になりかけていました。

 初めはアレルギー用のフードを食べていてもらったのですが、こちらの肥満のほうがより命にかかわると判断し(またアレルギーフードを食べていても全然かゆみが変わらないので)、ダイエット食に切り替えました。

 ダイエット食に切り替え、1〜2年かけて5kgから2kgへとダイエットしようと思ったのですが、これが全然やせないのです。

 毎月病院に来てもらうのですが、変わらず5kgのまま。
 場合によっては体重が増えてくることすらありました。

 「お父さん裏切ってるんじゃない?」とお母さんに聞いても
 「あれだけ厳しく言ってるし、やってないって言ってるし・・・あんまり言うと、怒るんです」と恐縮するばかり。

 そんなやり取りが延々と続き、とうとう2年ダイエット食を食べても、びた一文やせないという快挙を成し遂げました。
 お母さんのフードの与え方は間違っていません。
 現にフードの減り方から一日に挙げてる量を計算すると、きちんと量は守られているのです。
 フード以外のその他のカロリーをどこかしら(この場合お父さん)からもらっているのです。

 たいがい動物病院に足を運んでくださる飼い主さんは、その子の健康のことを気遣っている方で、「余計なものあげないでね」と言えば、きちんと守ってくれる、まじめな飼い主さんがほとんどです。

 問題は、病院になぜか近寄りたがらない、その他の飼い主さんです。
 失礼かもしれませんが、この病院に近寄りたがらない飼い主さん(おおむね「お父さん」「おじいちゃん」「おばあちゃん」と呼ばれる方々)が、陰で裏切っていることが非常に多いのです。

 それでも飼い主さんが「あげてないと思う」といわれる以上は、病院としてはどうしようもないわけで、ずるずると2年もの日々が過ぎてしまったのですが、ある日様子見ができなくなってしまう事態になってしまいました。

 それは、モモちゃんのまぶたに腫瘍ができてしまったのです。

 場所が場所ですから、急いで手術をしないと眼がまきこまれてしまう可能性があります。
 しかし重度の気管虚脱で、非常に麻酔のリスクが高い状態。
 せめて4kgまでやせさせてから手術に持ち込みたいところ。

 そこで飼い主さんに
 「もう甘いことは言ってられません。本気のダイエットをしましょう。
 早くやせさせて、手術しないと、最悪眼ごと取らなくてはいけなくなってしまいます。」

 するとお母さんは
 「今度こそ、お父さんにしっかり言います!お父さんもこの子のとこが可愛いんだから、きっと今回こそ協力してくれます」
 と、決意を新たに帰って行かれました。

 そして、2週間後来院。
 眼の腫瘍はさらに大きくなり、
 ・・・体重は全く減りませんでした。
 5kgのままです。

 お父さんには、私とお母さんの気持ちが通じなかったようです。

 お母さんは決死の思いで
 「先生、もうこの子を預かってください。お父さんがいるとこの子は痩せられないんです」
 とおっしゃいました。

 そして、モモちゃんの、単なるダイエットだけの入院が始まったのです。
 
 特に特別なことはしません。
 お母さんが家であげていたのと同じ量のダイエット食をあげるだけです。

 預かった日から毎日朝晩と体重を量りました。
 翌日体重が4.96kgへ、次の日が4.92kgへその次の日は4.9kgで、その次の日は4.88kg、次の日は4.84kg・・・

 モモちゃんの体重はみるみる間に減っていき、3週間で4kgになったのです。
 それと同時に、体をかきむしっていたあの痒みが、全くなくなったのです。
 しかも、体が軽くなって、はじめはじっとして動かなかったモモちゃんのフットワークが、とても軽やかになっていきました。

 4kgになると同時に手術を行い、無事まぶたの一部を取るだけで済みました。

 結局、モモちゃんのかゆみの原因も、お父さんの裏切り行為から起こっていたようです。
 
 お母さんは見違えるように痩せ(と言っても、あと2kgやせなきゃいけないのですが)、元気に動き回るモモちゃんを見て、とても感激し、何度も何度もお礼を言いながら
 
 「今度こそ、お父さんにきっちり言います!今回のことでお父さんもすごくさみしい思いをしたので、今回こそわかってくれたと思います!」
 と、お母さん。

 内心、なぜにここまで来て、まだお父さんを信じられるんだろう、と首をかしげたくなりましたが、これが夫婦の愛というものなのかもしれません。

 それでもこちらも飼い主さんを信じるしかないので、
 「モモちゃんは毎日平均で40gくらいは痩せていきますので、来月お会いすることにはもしかしたら3kgを切ってるかも」
 とお母さんと期待に胸を膨らませながらお別れしました。

 1月後再会したモモちゃんは、やっぱり4kgのままでした。


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