神様がいるかどうかは知りませんが、毎日診療をしていると、奇跡のようなものにであうことは稀にあります。
先日他院より回ってきた大型犬の患者さんで、前足の骨に腫瘍が見つかったこがいました。
まだわずか4歳でしたが、骨の腫瘍と言うと90%以上が骨肉腫で、この場合放置すれば寿命は約3ヶ月、手術(断脚)をしても半年から1年くらいで寿命を終えることが多いという、かなり厳しい病気です。
ですから手術は寿命を延ばすというよりも、少しでも痛みを除き、快適な予後を迎えさせてあげるという程度の意味合いしか持ちません。
大型犬ですので手術の費用も結構高く、また長時間の手術となるので手術の危険性だってないわけではないのです。
それでもこの飼い主さんはご家族で相談し、手術をする決断をされたのです。
確かに獣医学の見地から言えば手術をしてあげるのがベストですが、はたしてもし自分の犬だったとしたら、半年の快適な寿命のために、10万円もの費用を捻出できるかと言うと、現実問題としてはなかなか厳しいことだと思うのです。
きっと適当な言い訳をして、黙って見送るしか出来ないのではないでしょうか。
しかし、そのご家族は手術をして前足が一本なくなったワンちゃんに、「よく頑張ったね」と声をかけ、深深と頭を下げ、感謝の言葉を残しながら帰っていきました。
それから2週間ほど経ち、腫瘍の病理検査の結果が帰ってきました。
結果は「軟骨肉腫」と言うものでした。
骨の腫瘍の中ではたった2%ほどしかない珍しい腫瘍で、これは骨肉腫と違い、平均でも2年の寿命が得られ、摘出時期が早ければもしかしたら2年どころか、本来の寿命をまっとう出来るかもしれないというものです。
私はてっきり骨肉腫であろうと思っていましたので、これほどうれしい誤算はありませんでした。
当然飼い主さんの喜びも大きく、ご家族みんなで手をとりあって喜び、私に一生懸命お礼の言葉を言ってくださいました。
でもこれは私のおかげでも何でもなく、飼い主さんが呼びこんだ奇跡だと思うのです。
あのこが2年生きてくれるのか、それとも10年くらい生きてくれるのかはまだ分かりませんが、あのまま手術をせずにほっておけば、確実に数ヶ月で終わっていたであろう寿命を、ここまで引き上げたのです。
半年でも良いから、痛みのない予後を送らせてあげたいという飼い主さんの一途な思いが生んだ、奇跡ではないでしょうか。
尻尾を振りながら三本足で歩くワンちゃんを見て、不憫と思われる方もいるのかもしれませんが、私にはあのこはとても幸せそうに見えるのです(勝手な思い込みかもしれませんが)。
ペットの幸せは良い飼い主さんに出会えるかどうかであると、私は常日頃から思っているのですが、見捨てられなかったあの犬は本当に幸せなこだと思うのです。
良い飼い主さんに会い、ペットが幸せになる瞬間をそばで見られる時が稀にあるのです。
これだから獣医師はやめられないと、思う瞬間がたしかに(ときどきですが)あるのです。
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