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アレス動物医療センター

エンセファリトゾーンってカビなの!?

2019/12/5

 うさぎ飼いの人の中ではぼちぼち有名なEZ。
 いわゆるエンセファリトゾーンは寄生虫からカビにクラスチェンジしたらしいですよ。

 エンセファリトゾーンって何?という方もいらっしゃるでしょうから、一応前振りとして。
 エンセファリトゾーンとはうさぎの脳や、眼や腎臓に寄生する寄生虫です(と以前は説明していました)。

 実は健康なうさぎさんでも結構体の中に持っていることが多いそうで、ある研究では日本のうさぎさんの60%くらいで陽性(感染している)との報告もあります。
 まあ地域差もあるでしょうし、今後の研究にもよるでしょうが、思いのほかたくさんのうさぎさんが隠し持っているということは確かだと思います。

 ただもっているからと言って必ずしも発症するわけではなく(というか、むしろ生涯発症しない子のほうが多いくらいで)、何らかのストレスなりで免疫力が落ちた時などに増殖し、その増殖部位によって症状が異なるといわれています。
 一番よくみるのが脳での増殖で、この場合斜頸や眼振、姿勢異状などの神経症状を起こすことが多いです。
 また眼で増殖すると白内障に至ることが多く、腎臓で増殖すると腎不全を起こすといわれています。

 感染していても発症するこのほうが少ないくらいですから、あまり過剰に反応する必要はないのですが、ただそういう病気もあるんだなというくらいの知識は飼い主さんにもあってよいと思います。

 で、このエンセファリトゾーンは長らく寄生虫として分類されていて、今までのインフォームドコンセントでは
 「うさぎの斜頸はエンセファリトゾーンという寄生虫による脳炎か、細菌による中耳炎、内耳炎が原因のことが多く…」ともう条件反射のようにお話していたのですが、今度からは
 「うさぎの斜頸はエンセファリトゾーンというカビによる脳炎か、細菌による…」という表現に変わるわけです。

 まあそもそも厳密には「カビ」というより「真菌」という表現が正しく、寄生虫じゃないので、脳で「増殖して…」という表現もだいぶ語弊があるのですが、そこまで説明に詰め込んでしまうとおそらく飼い主さんの記憶容量をオーバーしてしまうので、たぶん説明としては
「脳でカビが増殖すると神経症状、眼で増殖すると白内障、腎臓で増殖すると腎不全…」というような感じになるのでしょう。

 寄生虫からカビにクラスチェンジというよりも、分類が変わっただけといえば変わっただけで、治療は現時点では大きく変わらないと思うのですが、なんだか「寄生虫」という説明にあまりに長く慣れ親しんできたので馴染むのに時間がかかりそうです。

 ちなみにエンセファリトゾーンがカビに分類変更されたのは、実は結構前で、ずっとインフォームドコンセントの表現を変えようか、変えまいか悩んでいました。

 というのもネット上では(うちのサイトも含めてですが)あまりにエンセファリトゾーン=寄生虫という情報が定着しすぎてて、診察室内で余計飼い主さんを混乱させてしまいそうだったので、どうしたものかとずっと思案していました。
 ところが先日届いた「日本獣医エキゾチック動物学会誌」という(マニアックな人たちの中では有名な)雑誌にがっつり「エンセファリトゾーンは真菌(カビ)」と掲載されていたので、きっと全国のエキゾ獣医師が一斉に「カビ」と言い始めるに違いないと、説明内容を変えることに決めたのです。

 意外とこれ大変なんですよね。
 もう20年近く、毎週毎週しゃべっていた言葉って、もう立て板に水というか、何も考えなくてもつらつらと出てきてしまうものなので、これをマイナーチェンジするのって、結構間だったり、リズムだったりに影響しちゃうんですよね。

 しばらくは無意識で「寄生虫」って言っちゃいそうな気がします。

 もしこれを読んだ患者さんがうちで診察を受けて、私が「寄生虫」と言っていても、やさしい気持ちで眺めていてください。
 「まあ、先生も40過ぎて50に近づいてくると、脳もだんだん融通が利かなくなってきてるのね、お可哀想に…」
 というくらいの気持ちで見守ってあげてください。

 たぶん半年後くらいにはつらつらと「カビ」と言っているはずです。

 でも「寄生虫」って言ったほうが何となく病気としてのインパクトというか、怖さが伝わるんだあよなぁ。
 「カビ」っていうとなんか身近な気がするというか、そんな大したことがないような気がするというか。
 そういう意味では小難しく「真菌」って言ったほうが、漠然と恐怖感が伝わるかなぁ。
 とかなんとか考えます。

 獣医師のインフォームドコンセントって、大阪のおばちゃんの世間話と一緒なんですよね。
 家を出てからスーパーにつくまでの間、近所の人に手当たり次第に同じ話を繰り返し、相手のリアクションを見、表情を見、インパクトを考え、余計な部分をそぎ落とし、場合によってはちょっと盛って、だんだん無駄がなく、きれいなオチのシャープな小噺に仕上がっていく。
 その作業がインフォームドコンセントにも必要なのです。

 見ててください。
 きっと半年後には無駄一つないシャープなインフォームドコンセントになっているはずです。

 

 

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