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アレス動物医療センター

思いついたことすべてをメモ

2021/10/7

 人に物事を説明するのは意外と難しいものです。
 それは飼い主さんに説明をする僕たち獣医師ももちろんですし、逆に飼い主さんが僕たちに病状を説明するのも同じように難しいはずです。

 先日看護師さんから掃除機が壊れたので修理に出してきてほしいとお願いされました。
 どう壊れたのか聞いたところ
 掃除機の紙パックを交換しても、『紙パックがいっぱい』という表示が出る。
 というのです。

 ほうほう なるほどと納得し、電気屋さんに行く前に
「ちなみに掃除機は動くの?」と聞くと
「全然吸えません」と返答が返ってきました。
 いや、そこすごく大事なところだろ!と内心突っ込みながら
「電源も入らないの?」と聞くと
「電源は入るけど、吸引できません」と

 本人は紙パックを交換しても『紙パックがいっぱい』という表示が出ることで、吸えないことも伝えているつもりなのでしょうが、客観的に見てどう考えても『吸えない』ことのほうが大事な情報だと思うのです。
 それに『電源は入るけど、吸えない』というのも結構大事な情報です。

 看護師に「いや、どっちかというと電源はいるのに吸えないって部分のほうが大事な情報だから…」と言い聞かせて、その足で電気屋さんに向かいました。

「紙パックを交換しても『紙パックがいっぱいです』という表示が消えず。電源は入るけど、吸引ができないんです」と電気屋さんで説明すると、電気屋さんが「ふんふんなるほど」と掃除機をコンセントにつなぎスイッチを入れます。

 ぶぉぉぉ〜
 軽快にごみを吸い始める掃除機
 1分経っても2分経っても頑張って吸い続ける掃除機
 電気屋さんの目が訴えています「…吸うんだけど」

 はてしなく気まずい思いをしながら、「いったん持ち帰ります」と掃除機を持って電気屋さんを出ます。
 そこではたと立ち止まり、まさかなと思いながら病院に電話して、件の看護師と変わってもらいます。
 
「今電気屋さんで掃除機の電源入れたら普通に吸引できたんだけど、もしかしてこれってしばらくしてから止まるの?」
「そうです。」
「どれくらいたったら止まるの?」
「4〜5分くらい?」
「…それを言え」

 きびすを返して電気屋さんに戻り、「どうも4〜5分経つと止まるらしいのです」と掃除機をようやく預けて帰ることができました。

 多分本人からしたら『電源を入れてしばらくは吸えるけれども、4〜5分経つと止まる』という情報はさほど重要ではないと思ったのでしょうが、まあその判断ができないまでも、すべての異常を伝えなければ、伝わらないのです。
 どの情報が重要かがわからない場合は、すべての情報を伝え、プロに重要度の判定を任せるべきなのだと思います。

 これは飼い主さんが獣医師に病状の説明をするときも同じことが言えます。

 先日高齢の猫で、「口が痛くて食欲がなく、毎日吐いている」という患者さんが来られました。

 いつもは別の病院さんに通っていて、今日はそこが休みだからと来院。
 持病とかないですか?毎日飲んでいる薬とかないですか?と聞くと、特に何も…。と

「どうして口が痛いと思うのですか?」と聞くと
「食べたそうにするけど食べないんです」と
「動物は食欲がなくなると『食べたそうにするけど食べない』という行動をよくとるので、もちろん口が痛い場合もありますが、それ以外の原因の時も同様の行動をするんですよ。
 口の可能性はもちろんありますが、何度も吐いているというお話ですから、もしかしたら胃腸の病気の可能性もあるかもですね」
 口の中がそれほど炎症があるようにも見えなかったので、レントゲンや血液検査をして
「アレルギー性の腸炎の可能性か、もしかしたら腫瘍の可能性もあるかもしれません。
 今日の治療で改善がなければ、さらに内視鏡やCTも必要かもしれませんね」
と、点滴などの治療をして、飲み薬も用意し、ここまでで説明も含めて約30分。
「それでは待合室でお待ちください」と促したあたりで飼い主さんがそういえば…とこちらを振り向きました。

「いつもの口内炎のお薬って、飲んでよいのですか?」と

「口内炎のお薬って何ですか?」と聞くと、
「小さいころから時々食欲がなくなるので、その時に主治医の先生からもらった口内炎のお薬を飲ませると、食欲が戻るんです。」と

 それ、今言うの?と
 全部の検査終わって、点滴して、お薬用意して、30分も診察して今言うの?と

 内心『まじで!?』と思いながら、「いやそうなると、また話は全然変わってきちゃうんです」と、一から診察をやり直すことになりました。

 多分その前振りが飼い主さんの中にあるから「口が痛くて食欲がない」という表現になったのだと思います。
 そもそも口内炎のお薬がもしかしたらステロイド剤で、実は口内炎ではなく、アレルギー性腸炎に効いていたのかもしれませんが(どちらもステロイド剤が効く病気なので)、いずれにせよいったんすべてリセットして、一から診断を組み立てなおす必要が出てきます。

 『いやそれすごい大事な情報だから!』とは思うのですが、それはやっぱり飼い主さんにはわからないことで、「なんでそれ先に言わないの;x;」と言ってもしょうがないことです。

 手持ちの情報の中で、どれが大事で、どれが関連していて、どれが関係なくてということを取捨選択するのは難しいことです。
 あるいはいつも言っている動物病院ならわざわざ言わなくても、伝わっている情報が、なんとなく始めていく病院でも言わなくても伝わるような錯覚を覚えることも多々あります。

 僕たちは飼い主さんに情報の取捨選択を求めてはいません。
 もしそれをされてしまうと、飼い主さんの中でたぶんできている自己診断(多分この病気に違いないという思い)に誘導されてしまうからです。

 関係ありそうなことも、関係なさそうなことも、小さいころからの治療経歴も、全部教えてほしいのです。
 忘れそうなら全部手書きのメモに列挙してきてほしいのです。
 
 どんなにその情報がたくさんあっても、何ならちょっと汚い字でも全然かまいません。
 書きなぐりの情報の羅列から、僕らはヒントを探していきます。
 言葉を話してくれない(あるいはこちらが理解してあげられない)動物の診療において、飼い主さんからの情報提供は何よりも大事な診断材料なのです。

 どんなくだらないことでもよいです。
 どんな関係なさそうなことでもよいです。
 病院に向かうまでの間に、思いつく限りのその子の情報を書き記してほしいのです。

 以前テレビで島田紳〇さんが、どこか体にいたいところがあったら、そこにマジックで大きくバッテンの印を書くと言っていました。
 いざ病院に行くと「あれ?どこが痛かったっけ?」と分からなくなってしまうことがあるからだそうです。
 マジックで印をつけて、病院に行って、「朝起きたらここが痛かった」と伝えると

 はあはあ なるほどね、と思います。
 ちょっと恥ずかしいけど良い案じゃないですか?

 僕だって、買い物に行くと、メモを持ってないと必ず何か忘れてきますもの。


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